中華料理 五十番 東京・押上







やや曇り気味ながら勢いのある陽射しが街を照らしていた、梅雨どきらしいと言えば梅雨どきらしい、すっきりしないそんな天候の6月半ばの休日金曜日だった。

時に東京スカイツリーが営業を開始して程なく嫁さんを誘ってその膝元の東京ソラマチへ出掛けたものだが、実はその際の本来のラーメン店紹介はこちらの予定であった。

そんなこちらを紐解けば、東京読売巨人軍において独自の一本足打法によって13年連続してホームラン王の大記録を樹立し、様々な功績を残して引退後、2008シーズンまでソフトバンクで監督も務め上げた、あの王貞治氏の父親が営業していた中華店を電話番号と共に実質受け継いだ店なのだそう。

しかしその日は店頭に立てば臨時休業なのか営業しておらず、定休日の無いお店だけに冠婚葬祭などの所用とたまたまぶつかってしまったところなのだろう。

そんなわけで本日は念のため営業を確認させていただき、通常営業しているとして東京スカイツリーの足元と言える場所のこちらへやって来た。午前11時から営業していると思って来たが、到着すると11時20分頃だったがもうすぐの30分から営業するそう。

外食店の開店遅れは営業時間の変更や食材の入荷遅れなど、その要因は様々とあるものでそこは気ままに受け入れる気持ちが大切だ。

丸椅子が店先に3脚だけ重ねられて用意されており、その一つを持ち上げて腰掛け暖簾が掛けられるのをじっと待つことにした。傍には木製の麺箱が台の上に置かれてあり、見ると大長軒食品と言う製麺所の名前が刻まれていた。

界隈は業四市場商栄会お買物横丁という小さな商店街で、目の前には中規模のスーパーと精肉店が営業していた。周辺に住む方々がひっきりなしに自転車でやって来ては何処かへと去って行った。

しばらくすると暖簾が掛けられて入店を促された。数ヶ月前にTBSテレビ「ぴったんこカンカン」で安住紳一郎さんに紹介されたらしく、そのことが判る色紙がカウンターの隅に貼られてあった。

カウンターのほぼ中央に腰掛け、メニューリストからワンタンメンと炒飯もさらにお願いした。ちなみに王貞治氏は今も提供する肉そばを好んでいたらしい。

そんな王貞治氏の父親である王仕福氏は大正11年に台湾から日本へ移住して来て、昭和3年に東京府吾嬬町(現在の墨田区八広)で五十番という名の居抜き店舗を店名毎買い取り店を始めたのが始まりだそう。

登美さんという富山出身の女性と結婚して、昭和15年に貞治氏が誕生している。昭和20年に起きた東京大空襲では焼き出されたものの直ぐに営業再開。その翌年に押上駅周辺の業平2丁目へ移転。

八広の土地は親戚筋に譲り渡したよう。押上の五十番は2店舗目と言う意味あいで「第2 五十番」と言う店名だったようだ。

ちなみに数年後の昭和23年にこちらの現店主が五十番に住みこみで働き始めたのだそう。その後王仕福氏の五十番は繁盛したらしい。

そんなこともあって新宿に土地を購入したのか、昭和37年に押上から店ごと転居している。その際に一番弟子だった店主が暖簾分けを許され、本家の直ぐ周辺の業平4丁目に暖簾分け店を開業させた。

なおその時に店名ばかりか先述した通り、電話番号も譲り受けたのだそう。奇しくもその電話番号は、昭和37年の西暦年数と同じなのだから面白い。

ちなみに世界新記録の756号の際には初の国民栄誉賞を授与され、引退まで通算868号のホームランをかっ飛ばした王貞治氏だが、その一本足打法が誕生したのがなんとこちらが創業した昭和37年シーズンで、その年からホームラン王の快進撃が始まっている。閑話休題。

逸話がかなり長くなってしまったが、厨房にはそのかなりご高齢となられた店主とそのご子息の二人がおられた。すぐ傍にあったフォトには店主とその息子さん家族と共に王貞治氏が笑顔で立っておられた。程なく到着。

それではと行かせて貰えば、その味わいはなるほど昭和初期から連綿と続く老舗店の味わいに近い東京醤油ラーメン。鶏の香りが初夏のそよ風のように瑞々しく感じられた。

麺の風情も何処か懐かしい面持ち。一方チャーシューやワンタンなどの具材は、そんなスープと麺もあってなのか現代にも通じる製法の風合いを感じた。

チャーハンもそんなスープを利用していることもあってか、とても素敵な昭和の風情が十二分に感じられるものでボリュウムもまた良かった。

なお王仕福夫妻の新宿五十番は昭和40年に閉店して行ったが、実質こちらがその後継ぎとして今も営業しているわけだ。

また八広の土地を譲り受けた親戚筋も、王仕福氏中華店創業の地として今もなお提供メニューを洋食に変えながらも「洋食50BAN」としてその名残りをとどめているらしい。

気がつけば完食。その頃には後続客が続いて、にわかに活気づく店内となっていた。

世界の王と称賛された選手の父親の中華店の周辺に、世界に誇れる東京スカイツリーが出来たのもどこか因縁めいている気がしてしまう。いや、かなり素敵で実に味わい深い、とても美味しいワンタンメンと炒飯だった。

(左フォト) ワンタンメン/炒飯/周辺/店頭外観 (2012.06.15) 


 中華料理 五十番@押上

 住所:東京都墨田区業平4-8-6  TEL03-3622-1962

 定休日:不定休/年末年始  営業時間:11:00〜14:00/17:30〜21:30

 アクセス:押上駅B1出口下車。外に出たら四ツ目通りで、左手へ進み一つ目の信号交差点を左折。
       30mほど歩いた右側にあり。



  2012.06.15 スカイツリーは押上駅のすぐ傍でもある。   2012.06.15 世界のホームラン王と接点がある中華店のこちら。